#2 グレーのトレーナー

僕は、警察官の間に挟まれるように車の後部座席に座るように指示された。
頭の中は真っ白である。

一体何が起きているのか?悪い夢なら覚めてほしい。今後どうなるのか?

何もわからない。

その後、家から三田警察署への間が、とても長く感じたが到着した。警察署の中に入ると、自分の知らない警察署のようだった。

地下に誘導され廊下を進むと、とても頑丈な大きな扉があり、その前で、壁の方を向いていろと指示があった。そして大きな掛け声とともにその扉が開く。

扉が開くと、違う警察官がいて、近寄ってきて話をしてきた。

「私は、皆さんのお世話係です。刑事ではないので安心してください。」

その後、小さな部屋に誘導され洋服を着替えるように指示された。

テレビで犯人が逮捕されたというニュースで見たことあるグレーのスウェットがおいてあった。グレーの上下のスウェットと靴下が用意されていた。四田とマジックペンで大きく書かれた洋服。センスのかけらもない。

警察官の前で全裸になりそのスウェットに着替えるのだが、ゴリラみたいな警察官に下半身をジロジロみられて気持ちが悪い。しかも僕は、アンダーへアを脱毛しているから案の定、言われてしまったのだ。

「お兄さん毛がないけど、なんで?」

「むれるのが嫌なので脱毛したんです。何か問題ありますでしょうか?」

「ずいぶん反抗的な態度だな。」

「そんな事ありません。聞かれたことに答えただけです。」

その後、テレビで見たことのある洋服に着替えて、おもむろにおかれている体温を測った。持病はあるか?と聞かれたので、熱があると思う。それとストレスのせいで体に蕁麻疹があると思う。と答えた。すると、どうやら熱があったようだ。

「お前、熱があるようだが、コロナなのか?あと蕁麻疹もあるようだな。病院へ連れていくから待ってろ」

そうして、拘留生活がはじまっていくのだが、自分の名前は43番という名前になり、3番の牢屋に入れられることになった。

とてもガランとしている部屋。これが逮捕された後の犯罪者として疑義状態である状態で拘束される拘留所。つまり牢屋なのだ。

コロナのせいもあって、数人の部屋ではなく、一人一部屋を与えられた。部屋にはいってみるとカーペットが敷かれている以外、何もない。入口には細かい網の鉄格子。窓にも鉄格子。当然外を見ることはできない窓で、監視するためのものだ。そしてトイレには扉ではなく、上下が開いた開閉式の仕切り板がついているだけだった。

起業してから約10年間、プライベートも捨てて、がむしゃらに仕事をしてきた。仕事では秘書も二人いたし、運転手もいた。常に何かがある状態だったのが当たり前だったのだが、拘留所には一切何もない。

どうしたらいいんだろう。シーンとしている。僕は病院に行く間の約1時間とても長く感じた。会社のことが心配でもどうしようもできない現実に絶望感を抱いていた。

そして、

「おい43番。病院にいくから。」と言われて牢屋の扉が空き、廊下の途中で手錠をかけられ、大きな扉の前で壁の方をみて立つように指示された。

大きな掛け声があり、大きな扉が開いた。

すると半田刑事がニヤニヤした顔でこちらを見ている。病院予約したから連れていくから。といって、先ほど逮捕された車に警察官に挟み込まれるように座った。

「どこの病院に行くんですか?」

「救急だから高輪損保病院に行って診察してもらう。」

「病院に行くのは理解したが、今後自分はどうなるのか教えてほしい。そもそも弁護士は呼べないのか?」

「いつ家に帰れるのか?はやく帰りたい。仕事に支障がでてしまう」

「君はうるさいね。黙って座っていてくれないか?」

「黙ってられるか。」

すると病院に到着して、手錠をしたまま病院に入っていくのだ。ほかの患者からはジロジロみられながら、診察室に入ったら、医者が熱を測ろうと言ってきた。

37.4度だね。コロナの熱といわれる温度だが、コロナの感染者と接触した記憶はありますか?いいえ。ありません。微熱のようだが、解熱剤をだしておきます。では。そして、次は蕁麻疹の診察のため、違う病院へ向かうことになった。
外は夕暮れ時になっていた。まだ捕まってそんなに時間が経ってないようだ。

体感ではもう数日経っているような感覚。すると次の病院では、軟膏を処方されて警察署に戻るころには夜になっていた。

そして大きな扉の前に立つ。

刑事からは、明日取り調べを行うから覚悟しておけよ。と言われた。

そして、手錠を外され、牢屋に戻った。

牢屋には荷物のやり取りをするような小さな扉があり、そこがあけられ、まるめられた茣蓙を渡された。

はい。これはテーブルだからな。この上で食べろよ。

どういうこと・・・。テーブルではないが、御座をランチョンマットのようにしろという事であろう。とりあえず敷いてみた。

次に弁当箱と醤油を渡された。43番が病院にいっている間に夕ご飯が終わっている。今すぐにこれを食べなさい。

と言われ、冷めきったご飯と、3品ほどのおかずが入った弁当を渡された。そして茶碗にはお茶が注がれた。

いわゆる冷や飯と呼ばれる食事をしたのだが、本当に愛情の感じられないご飯だった。その日は起きた事を消化できなかったので食欲がまったくなかったが、頑張って全部食べた・その後、1時間くらいの空き時間があり、点呼と呼ばれる所在を確認があり、ネルう準備の時間だ。布団を自分で取りにいき、歯磨きの時間だ。

想像の通り、ペラペラな布団。つい部屋の隅に布団を敷きたくなったので、用意をしていたら怒られた。

真ん中に布団を敷け。顔を隠して寝るな。

電気もついたままなんですか?

当たり前だろう。さっさと寝ろ。

43番は薬が処方されているから、飲め。

飲んだら、口を開けてこちらに見せろ。

今は夜の20時。こんな時間に寝るのは小学生以来な気がする。

それにしても、こうなってしまうと誰とも連絡が取れない。会社はどうなってしまうんだろう。不安でしかない。

12年前に母親が亡くなった日を最後に人前で泣かないし、社員からも友人からも泣いた事あるのか?聞かれるほど泣くことがなかったのだが、今夜は周囲に対する申し訳なさと、自分ではどうしようもできない悔しさと、こうなってしまった悲しさが入り混じった複雑な感情になり涙が出てきた。

いつもならあっという間に過ぎる一日が今日はとても長く感じた。

続く